おせち料理までは無理でも、雑煮くらいは作ろうと思い立った正月。
…と言っても、餅菜(小松菜)の味噌汁で餅を煮ただけのものだけど。
「何作ってんだ?ぼくも食う!」
かつお出汁の匂いに誘われたのだろう。
賑やかな声と共にイールが駆け込んできた。
その後ろからは、何か変わった物が見られると踏んだのか、クリスまで顔を出す。
「いいけど…餅なんて食えるのか?」
「なんかわかんないけど、食える!」
何も考えていない返事が間髪いれずに返ってきて、つい笑ってしまう。
ま、何でも試してみればいいさ。
そう思って、イール用に雑煮をよそって鰹節を少しかけてやる。
熱いぞ、という俺の言葉を聞いているのか、いないのか。
好奇心一杯の真剣な顔でしばらく匂いを確かめて、おもむろに箸を握る。
突き刺し、掬うように持ち上げた餅はよく伸びて、イールの大きな目が驚きでさらに見開かれた。
「これ…食えるのか?」
「食えるけど、あんまりたくさん口に入れないほうがいいぞ」
「雑煮とは…こういうものだったか?」
「地域や家庭によって味噌とか澄ましとか色々あるんですよ。俺の好みで適当に作ってるんでこんな風ですけど」
餅と格闘するイールを、彼女に負けないくらい興味津々で眺めながら尋ねるクリス。
食べてみますか?という問いに少し考えてうなずく彼に、もう一つ残っていた餅をよそって渡した。
無表情に、けど迷いなく口に運ぶ。
よっぽど気になっていたらしい。
しかも、箸が止まらないところを見ると味の方もまぁお気に召したようで。
味噌汁が足りなくなって自分の分を作り直す羽目になったことに苦笑しつつ、それでもまぁ、二人の口にあったのなら、それは良かったことにしておこうか。
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