夜桜も綺麗なんだよね…

花見をしながら桜がぽつりとそんな風に呟いた。
この公園は花見スポットで、確かに夜桜見物を楽しむ人も多い。
ただ、大抵のグループはいい具合いにアルコールが入っているし、それをうらやましがる桜の顔まで想像できてしまう。
酒が飲める=大人なんて図式をどこで覚えてきたのか、背伸びの仕方には問題があるな。
そんな訳で、酒盛スポットを連れ歩く(しかも夜)のは教育上あまりよろしくないとは思うのだけど、今しか見れないものなのだから見せてやりたいとも思うわけだ。

…で。思い立ったが吉日。
幸いまだ週の中日で満開にはもう一歩のようだし、少し遅めの時間ならそれほどは賑わってもいないだろう。
案の定仕事の心配をする桜の悪いクセに苦笑させられながらも、なかば強引に夜の散歩につれだした。



少し冷えたせいもあるのか、予想以上に公園は静かだった。
ぽつぽつと集まっている人たちも、周囲が静かだとなんとなく羽目をはずしづらいのか、割りと穏やかに楽しんでいる。

街灯に浮かび上がる桜は淡く昼よりなお儚げで、強い風でも吹いたらすべてかき消されてしまいそうだ。
じっと眺めていると、時間も忘れてふっと意識まで持って行かれそうな、そんな不思議な感覚に襲われる。

周囲から切り放されるような錯覚に陥りそうになるのを、微かな声が引き止める。

…くら
さ…くら
やよいの
そらは…

小さな声が歌う。
どこか淋しげな旋律を静かに歌う。
子供特有の甘い声なのに、その歌い方は大人のそれで。

みわたす、かぎり…
かすみか
くもか…

「桜…?」
「…うん?」

歌声が空気に溶けこんでしまいそうで、不安に襲われて呼び掛ける。
はっきりした声で答えが返り、同時に歌声が止まった。
どうかした?と振り返った笑顔は先ほどの歌のように大人びて、なんだか、ふいと気持ちを非日常へとさらっていきそうで。

「冷える前に帰るか」
なんでもない振りをしながら言って、手に少し力をこめる。
自分の手の中に包まれた小さな手が、現実のものであるのを確かめるように。
すり抜けていってしまわないように。
…なんて、本人には絶対に言わないけれど。

 

Luckyさんから、お年賀に頂きました。
桜の髪留めと、cuteかつ色っぽい表情が可愛いったらありませんv
素敵な文章も添えて頂いていたのですが、それは私だけに…ということで、ここに載せさせて頂く分には私のSSを一緒に、という宿題(笑)を頂戴しました。
何とか書き上げた頃には桜の季節も終わっていたという…。

珍しく(?)ちょっと弱気な拓真です。
きっと、表面上はそんな気持ちは微塵も見せていないのでしょうけど。

Luckyさん、ありがとうございました!